荒瀬光治
5――可読性と可視性の違い。そして紙の色

 コミュニケーション媒体によっては、文字の瞬間的な視認性だけが必要なものもあります。ポスターや看板、公共施設などでのマークや案内板、交通標識の文字などです。ここで言われる読める読めないは、可視性の問題になります。
 これも可読性の一部と捉えることも可能ですが、ここでは別の扱いとして考えたいと思います。「可読性」には読んで内容を理解する時間的な経過があります。「可視性」は瞬間的な認識が重要で、読みやすさの条件にありました「疲れない」は考慮の対象外です。
 可視性の問題では、その文字の形体が単純であること、つまり画数の多い文字やハネ・ウロコなどの個性豊富な明朝では瞬間的な認識が乏しくなります。そして大きくないと遠くから識別できません。必然的に大きなゴシック体が使われます。それとともに地(バック)とのコントラストが重要になります。一説には、スミベタのバックにレモンイエローの文字が可視性には優れているようです。黒い写真の上の白や黄ヌキ文字は確かに遠くからでも視認性は高いと想像できます。ただし可読性の面で想像してみますとリード文のような 200 字程度の文章量ならともかく、小説のような長文を白ヌキで読む気はしません。目が疲れることが容易に想像できます。
 
 可視性に必要なコントラストも可読性では逆に疲労を増す要素となってしまいます。
 ためしに、この頁はバックを白にしてみました。どうですか、クッキリと文字は見えますが、ギラギラとして疲れませんか? 一般には出版物の紙は白だと考えられていますが、文字中心の新書や文庫本で使われている紙の色はクリーム色です。一般の白いコピー用紙と比較してみてください。文字を中心とした書籍の紙はかなり黄味の強いクリーム色だとわかります。
 これは読者の目の疲労を防ぐために、出版や印刷業界で継承してきた文化の一つです。ところが最近、文字中心であるにも関わらず、コピー用紙のような白い紙を使った書籍が増えています。デザイナーも編集者も、もっと読書環境に配慮をして欲しいものです。
 文字中心ではなく、写真や図版を見せたい、特にカラー写真では印刷される紙は白でないと適切な色再現はできません。カラーの印刷は CMYK の 4 版に分けられて印刷されますが、前提条件に紙が白であることがあります。どうもこの延長で紙を選んでしまっているんではないでしょうか? 広告業界の影響でしょうか、次から次へとビビットな刺激を社会が求めているような傾向もあります。でも文字中心の書籍の紙は目的によって選ばれるべきでしょう。本当に読書が好きな読者のためにも。

  「ページ印刷物〜」トップへ     「読みやすさ」トップへ    次(6)へ  
このホームページに関する、ご意見・ご感想は mailto:arase@mbe.nifty.com までemailをお願いいたします。